こたつむり back index
 こちらの世界にやってきた景時はあれこれ便利なものに心を踊らせ、感心し、あれもこれも気に入って、電化製品マニアかと思われるほど電気店に行くのが好きになってしまった。そのうちアキハバラの電気街で怪しいものを買い始めるのではないかと思うくらいだ。(もしかしたらもう買い始めているかもしれない)好きな電化製品は数あれど、冬になって景時が最も愛しているのが「こたつ」だった。
 こんなに素敵なものがこちらの世界にあるなんて! とばかりに、家にいるときの景時の生息場所はこたつである。部屋全体が温まるストーブの方がよっぽどいいではないか、と背中を丸めてこたつでだらけている兄を見るにつけ、朔などは思う。掃除をするにも邪魔になるので追い立てるのだが、こたつごと移動していく兄を見ると頭が痛くなる。ところが、望美に言わせると、そんな景時が「無敵に可愛い!」ということになるらしい。
「もう、景時さんってこたつってイメージにぴったりだよね〜!
 なんか、こう、ほっこりっていうの? あったまる〜って感じがさあ。
 こたつでのんびりしてる景時さんを見てると、
 あ〜幸せってこういうことなんだろうな〜って
 気分になっちゃう。ね、ね、なっちゃうでしょ? 朔もなるよね?」
……ならない、とは言えないような勢いでそう言われて朔は仕方なしに半分ほど頷く。そんなわけで週末、望美がやってくると、梶原家のこたつむりは二人に増える。
 みかんを剥きあって食べていたり。こたつの中で手が触れ合って照れ有ったり。足に悪戯されてはしゃぎあったり。そういう二人を眺めていると、朔もほんの少し、望美の言うことがわかるような気分になった。
『幸せってこういうことなんでしょうね』
冬の間のこたつむりに、もう少し寛大な気持ちになってみようと朔は思った。
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