恋人イベント目白押し back index
こちらの世界に戻ってきたのが、冬休み前の12月だったことに、望美は密かにガッツポーズをとった。それはもちろん、自分たちが京へ飛ばされていた間にこちらで時間が経過してしまって、不審な行方不明期間ができてしまっていたら困る、ということもあるが、そんなことは大きな問題ではない。
(今年は、今年の冬はこれまでと違うんだもん!)
 なんといっても連れて帰ってきてしまったのだ、お婿さんを! いや、まだお婿さんと呼ぶには気が早いかもしれないが、とにかく将来はそうなること決定済みな人を持ち帰ってきたのである。考えてみれば、京での苦労もこの大切な愛しい恋人の代価と思えば妥当なものである、と今なら言えそうな気がしないでもない。
 望美も現代に戻ってくればごく普通の高校生の女の子だ。クリスマスだって年越しだって初日の出だの初詣だの、はたまたバレンタインだの、数ある行事を家族でもなく友達でもなく幼なじみでもなく、恋人と過ごしたいという夢はある。いや、もちろん、友達とだって幼なじみとだって家族とだって楽しいけれど、それはそれ、これはこれだ。
(景時さんとクリスマスでしょ、
 それから、除夜の鐘聴いて一緒に年越しして……それってお泊まり? きゃー!
 そ、それから初詣でしょ、初日の出も見に行かなくちゃ、やっぱり海だよね
 それからバレンタインもあるし……)
毎月行事が続くのに既にうっとりしてしまう。しかし、そこではたと気付く。
(景時さんってこっちの行事には詳しくないよね……)
 年越しや初詣はともかく、クリスマスとバレンタインは知っているはずがない。しかし、それは逆に望美には楽しく思えた。
(……景時さんに、いきなりプレゼントを贈ったりしたら驚くだろうな〜!
 それで、今日はクリスマスって行事の日で、大切な人にプレゼントを渡すんですって。
 喜んでくれるかな? くれるよね。何をプレゼントしようかなあ〜)
びっくりした顔で望美を見て、それからすごく嬉しそうな顔になる景時を想像してそれだけで叫びたくなるくらいドキドキした。
(そうだ、絶対、24日会えるように予定開けておいてくださいね、って言っておかなきゃ。
 あと、プレゼントを買いに行くからその前の休みは用事があって会えないですって……
 うーん……がっかりされちゃうかな、でも、クリスマスはびっくりさせるから
 我慢してね〜)
 二人で過ごせる冬のイベントも楽しみだが、景時を驚かせて喜ばせたい気持ちでいっぱいだった。今までとても大切にしてくれた、自分のために沢山無理もしてくれた。そんな人だからこそ、いっぱいいっぱい幸せを感じられるように、たくさんのものをあげたいと思う。モノでは量れないけれど、それでもそんな風にモノに託して想いを伝えられる機会が多いのは望美には嬉しいのだ。何を送ろうかと思案しながらも、善は急げとばかりに望美は携帯で景時へ電話をかけ始めた。



 ところで望美にも誤算はあった。一緒に京へ飛ばされ、帰ってきた幼なじみたちの存在である。義理堅く世話焼き性な望美の幼なじみ二人は、この季節がどんなものかを勿論熟知していた。そして、景時はそういうことに疎いこともきちんとわかっていた。
 そんなわけで、クリスマスという行事が恋人たちにとって如何に大切であるかを望美の幼なじみ二人から滔々と諭された景時によって、クリスマス当日は望美の方が驚かされる結果となったのである。しかし結果は如何であれ、二人が幸せいっぱいだったのは間違いがないことだった。
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