君の手を握ったまま、おやすみなさい
 オレの一日は望美ちゃんで始まって、望美ちゃんで終わる。なんて幸せなことだろう! これってすごく贅沢なことだ。朝起きて、一番に顔を見るのは望美ちゃんの顔。すやすや幸せそうな顔で眠っている望美ちゃんの顔を見ると、胸がいっぱいになる。この幸せそうな顔を護るためにオレも頑張らなくちゃって思うんだ。望美ちゃんはオレの一日の活力だ。
 そして、夜。オレに寄り添ってくる望美ちゃんは柔らかくって温かくって、一日頑張ったなあ〜っていうオレにとって、最高の癒しだったりする。望美ちゃんはオレに元気をくれて、疲れを癒してくれて、本当にすごいなあ。オレはどうだろう? 望美ちゃんの一日はオレで始まってオレで終わってる? オレは望美ちゃんに元気をあげて、疲れを癒せてるかな。
「景時さんの隣で眠るのって温かくって安心できて、すごく良く眠れて大好き」
 照れた顔でそんな風に言ってくれると、オレもほっとする。オレの腕を枕にして眠る望美ちゃんは、それだけではなくて、オレのもう一方の手を捜してくる。そしてその手に指を絡ませて握ってくる。
「手を繋いでると安心するから」
 一緒に眠るようになって、案外に望美ちゃんが寂しがりやなんだってことに気付いた。ずっと一人で眠っていた頃は、我慢していたのかな。そんな風に思うと、そのときの分も、と思っちゃってぎゅっとしっかりその手を握り返してあげたいなって思う。
 それにオレも望美ちゃんの手を握っていると少し安心するんだ。
 例えば夢の中にも一緒に行けそうな気がして。望美ちゃんが呼べばすぐに彼女の夢の中にまでも駆けつけられそうな気がして。
 オレがそうやって望美ちゃんの手を握り返すと、彼女は安心したように嬉しそうに微笑んで「おやすみなさい」と囁いて目を閉じる。それからしばらくすると、すうすうと規則正しい寝息が聞こえてくる。握り締めていた手から力が抜けて、それでも絡んだ指はほどけずに繋がったまま。彼女の寝顔を確かめてから、オレはその瞼にそっと口付けて目を閉じる。この手を握り締めることのできる幸せ。オレの手を取ってくれる人がいる幸せ。この手を失いたくないと思うから、オレはきっと自分にできる限りのことをするんだと思う。
 護らなくてはならないものがあることは、とても幸せなことなのだと望美ちゃんと出会って、教えてもらった。護らなくてはならない人がいるということは、枷ではない。それは幸せなことなんだ。幸せになるために、支えあえるってことなんだ。オレが知っているようで知らなかったたくさんのことの意味を、例えば誰かを好きになるということ、誰かと生きるということ、誰かを護りたいと思うこと、そのために何ができるかということ、その意味を望美ちゃんは教えてくれた。
 おやすみ、望美ちゃん。朝、君で始まった一日が、君で終わる。この幸せがずっと続くように、オレはそのためになら、きっとどんなことも乗り越えていける。ああ、ちょっと違うかな。どんなときも、きっとこの手は君と繋がっていると信じられるから、だからきっと、どんなことも乗り越えていけると思えるんだ。
 おやすみ、望美ちゃん。君がオレに与えてくれた強さと幸せと、そのほかのたくさんのことを、オレも君に返すことができているように。君がオレの手を選んでくれたってことは、幾分の一かは返せていると思っていいかな、って自惚れてしまうけど。
 おやすみ、望美ちゃん。眠るときに繋いだ手が目覚めたときも繋いだままでありますように。
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