『セックス』10の御題
お題配布元:39℃より
君の熱 水音 声を聞かせて 甘い囁き 優しいキス
爪痕 一つになれたら 抱擁 真っ白な世界 溶けていく
 
君の熱  素肌の体温は望美の方が景時よりも低い。寒い日はそれこそ足を景時の足に絡ませて、熱を分けてくれと寄り添ってくる。そこには誘惑の意図は特にないようにも見えるけれど、我慢しろというのも無理な話。
 せっかく温かくなってきたのに、と笑いを含んだ声で囁く唇を黙らせて、ふるり、と震える素肌をさらして。触れれば少しひんやりとした感触が手のひらに伝わって、滑らかな白磁の肌に景時は陶然とする。
 それでも、そのひんやりとした身体の奥に、熱が隠されていることを景時は知っている。内側に眠る望美の熱を呼び覚まして、身体の中から暖めて。こうやって望美の身体に熱を灯すことができるのが、自分だけだということが、とても嬉しくて仕方がない。  もう、寒くないでしょ? と悪戯っぽく囁いてみると、今度は熱いと縋り付かれて。君の熱を起こすのも、解放するのも全部、オレだけの特権。そう胸の内で呟いた。
 
水音  人間の身体の70%は水で出来ている、と言われているんだっけ、と望美はぼんやりと何かで聞いたことを思いだした。こんなときに、こんなことを考えているなんて、と可笑しくなって、つい笑いが小さく漏れると「違うこと、考えてる?」と強く揺すぶられた。途端に強い快感が身体の中から突き上げてきて、息を呑む。背中にしがみついた手に感じる、景時の汗。「だって……」と小さく言った言葉も、唇に奪われて消えた。
 お互いの身体の中の水を混ぜ合わせているみたい。そんな風に思ったから思い出したのだけれど。手に滑る汗も、口づけ絡め合う舌先も、深く水音を立てる繋がりも、すべてお互いの水を混ぜあって一つにする儀式のようだ。それでも70%が混ざり合うだけなのかな、と思うと、少しだけ寂しくなった。人の身体の全てが水で、全てがあなたと混ざり合えればいいのに。深く深く一つになりたいと、望美は尚更強く景時にしがみついた。
 
声を聞かせて  自分でも知らない自分の声があるということに、望美はひどく驚いた。景時の指先が身体を滑っていくだけで、思わず漏れる声。まるで自分の声ではないようで、恥ずかしくてたまらない。こんな声を出すなんて、おかしく思われたりしないかと、自分を抑えたくて唇を噛んだ。それでも噛みしめた唇の間からくぐもった声が漏れてしまって、思わず目を強く閉じて身体を捩ってしまう。そんな望美に景時が腕を伸ばして頬に触れてくる。
 噛みしめた唇に湿った感触を感じて目を開けると、舌先でそっと舐められていた。「強く噛んで、血が滲んでるよ?」嫌だった? と小さく尋ねられて首を横に振る。触れられるのが嫌なんじゃなくて……躊躇いがちに答えると、なんだ、そんなこと、と優しく微笑まれる。「望美ちゃんも知らない望美ちゃんのこと、オレが引き出せるなんて嬉しいから、もっと声を聞かせて?」その言葉に噛みしめた唇も、すぐに融かされた。
 
甘い囁き  たまに、昼間の景時と夜の景時は別人なんじゃないかとか考えてしまう。明るい陽の下にいる彼は、触れてくる行為もどこか無邪気で、少しも熱っぽいものを感じさせない。言葉だって真っ直ぐで、時折思いの丈を語ってくれるときも、慣れない様子で恥ずかしげにしている。そんな彼が可愛くて愛しくて、つい望美はからかいたくなってしまう。なのに、夜の景時は昼間の幼さが何処かへ隠されたように、不意に大人の男の顔になる。
 触れる仕草も昼と変わらないように思うのに、どこか熱を帯びていて「望美ちゃん、好きだよ」耳元で囁く声も甘く濡れているようで、何を囁かれても夢見心地になってしまう。そして、望美は気付く。ああ、景時さんだけじゃない、夜の私も、昼の私とは違うんだ、と。昼の私と夜の私、どんな風に景時さんには見えているのかな。甘い囁きに身を委ねながら、望美はそんなことを思った。
 
優しいキス  キスにはいくつか種類がある。話には聞いていたけれど、実際に経験してみて、なるほどと望美は思ったものだ。それだけではなくて、キスにはいくつか意味もある。好き、とか、大丈夫、とか、もっと、とか、嬉しい、とか。時々、言葉よりも雄弁だったりする。景時と望美の間だけの気持ちを伝える方法で、そしてとてもストレートに相手の気持ちが伝わってくるのが不思議だ。
 他の誰かを知っているわけではないから、比べることはできないけれど、話すことが好きな景時のキスは、やっぱりおしゃべりな気がする。いつも優しく触れてくるキスは、その軽く触れる行為にとてもたくさんの彼の思いが込められているように思う。だから、それだけで幸せに満たされてしまうのだけれど、同じくらい雄弁に、彼にも思いを込めたキスを返したくて。今日は自分から景時にキスを送ってみようと思った。



このページのTOPへ
次ページへ
お題部屋へ