*二人のためのお題 Type : 1*
■膝 枕■
ほのぼの日差しが暖かい春の日。久しぶりの休みを景時は望美と二人、庭を眺めて過ごしていた。戦が終わってからも、忙しい日々を送っていた景時だったが、その毎日はとても充実している。以前は苦痛でしかなかった日々の仕事が、今は喜びだった。もちろん、苦労も多いけれどそれでも誇りが持てる。新しい世を作り、もう戦もなく皆が平穏に暮らせる世を保つのだと頑張ろうという気持ちになれるのだ。その力の源には、新妻となった望美の存在がある。どんなに疲れて帰ってきても彼女の姿を見れば、また明日も頑張ろうと思えるのだ。その笑顔を護ることが至上の使命に思えてしまうのだ。そんなわけで、偶の休み、邸で望美と共に過ごすことは何よりも楽しみであり幸福な時間なのだった。
そよと風が二人の髪を弄り、高く澄んだ空に目をやれば雲がゆっくりと流れていく様を飽きることなく眺める。耳を澄ませば鳥の囀りが聞こえ、花の香りがどこからともなく漂ってくる。まるで桃源郷にいるみたいだ、と景時は思って微笑んだ。きっと、季節はいつでも、場所はどこでも、隣に望美がいさえすればそこは桃源郷に違いない。
「景時さーん?」
うっとりと目を閉じている景時に望美が語りかけてくる。
「んー?」
なんだか心地よくて、この気分に漂っていたくて目を閉じたまま景時が応える。ぽかぽかと暖かくてそのまま眠ってしまいたい気持ちだ。
「眠いですか? お天気良くって気持ちいいですもんね」
くすくすと笑う声がして、その笑顔を見逃すのはもったいなくて景時は薄く目を開けた。眩しい笑顔で望美が景時を見つめている。風が弄る髪を片手で押さえて。薄い桃色の小袖がとても似合っていた。柔らかな身体を想像して触れると心地よいだろうなと考え、不埒な考えを振り払うように慌てて目を閉じる。
「景時さーん? お昼寝しちゃいます?」
「んー……」
やっぱり、くすくすと望美が笑っていて、景時はまた薄く目を開けた。少し照れたような表情で笑みを湛えた望美がぽんぽん、と小さく自分の膝を叩いている。それがどうやら、そこに頭をどうぞ、という合図らしいと気付いて景時は頬が熱くなるのを感じた。いや、確かにそれは嬉しい。嬉しいけれどなんだか照れくさい。これまでに、そんなことをしてもらったことがないからだ。けれど、そんな風に望美が言ってくれるのが、彼女と自分が本当に近しい存在となったことを示しているようでとても嬉しい。
「景時さーん?」
もう一度、そう呼ぶ望美の声がして、景時は目を閉じたまま――照れていることがばれないように――そっと、その膝に頭を預けた。思ったとおり、望美の膝は柔らかくて、心地よくて。そよとさやぐ風が頬を撫でていくと、そっと望美の指が自分の頭を撫でるのを感じた。
「好きな人に膝枕って……ちょっとしたアコガレだったんですよ?
 なんだか幸せ〜って感じですね」
そんな望美の囁きが耳に届いて。景時は自分も幸せだと彼女に伝えるようにそっとその身体に腕を廻した。
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