*二人のためのお題 Type : 1*
■くすぐる■
「ちょーっと! 将臣くん、何すんのよ、きゃー!」
賑やかな声が京邸の庭から響く。
「兄さん! もう子どもじゃないんだから、何やってるんだよ!」
景時はその声に驚き、部屋を出て階まで出ると、有川兄弟と望美の3人がなにやらじゃれあっているのが見えた。将臣が望美を抱え込んでくすぐり、譲がそれをひっぺがそうとしている。
「うるせー、さあ、吐け、お前がここくすぐると弱いのはガキの頃からわかってんだよ、さあ、正直に言え!」
「やだー、譲くん、た、助けっ……もう、きゃーはっははは!」
「兄さんっ! いい加減にしろよ、もうっ! 子どもじゃないだろっ!」
なんだか、庭のその一角だけが変に眩しくて、景時はただ――
(あ〜、いいな、羨ましいなあ……)
と思った。思って、そう思った自分に驚いてしまう。
(なっ、何考えてんの、オレっ! う、羨ましいって、羨ましいって、誰がナニがっ…!)
とはいえ、自分のことだ、そんなことは自分に問い直すまでもなく十分わかっている。何のこだわりもなく望美に触れることができ、あんな風にじゃれあえる二人がとても羨ましいのだった。望美のあの笑顔が眩しい、出来ることなら自分だって彼女とあんな風に屈託なく……
「か、景時さーんっ」
そんなことをぼんやり考えていたら、景時の姿を見つけた望美が将臣の腕から抜け出して駆け寄ってきた。そのまま階を駆け上がって景時の背中に隠れる。
「た、助けてください、もう、将臣くんってばっ!!」
「え、ええっ、わわ、の、望美ちゃーん」
思わず景時が仰け反る。その両手を挙げた景時の脇腹に望美のほっそりした手がかかり、景時はその手をひどく意識した。
「望美、お前、景時を盾に使うとは……語るに落ちたな?」
「なっ、何よっ、何が何だっていうのよっ」
何やら少し慌てた様子の望美の声が背後から聞こえたが、景時はそれどころではなかった。
「の、望美ちゃん、そ、そこ、くすぐったいよ、ちょっと…!」
将臣が少しばかり意地悪な顔でじりじりと機会をうかがうようににじり寄ると、それにあわせて望美も景時の背後で左右に身体を動かし、それにあわせて望美の手が景時の脇を掴んだまま動く。その動きがとてもくすぐったい。思わず、望美の動きにあわせて景時も身を捩ってしまう。
「あ〜、景時さんも、ここが弱点ですねっ!」
「えっ? あ、わわっ、ち、ちょっと、望美ちゃんっ!」
悪戯っぽい顔を一瞬見せた望美が景時の脇で指を動かしくすぐってくる。途端にそれが景時の身体を駆け巡っていってまるで海老のように身体を折り曲げてしまう。
「うひゃーっ、ち、ちょっと、の、望美ちゃんっ、か、カンベン、カンベンしてーっ!」

呆れたような表情の将臣と譲が、肩を竦め、そして、将臣が望美に向かってまるで頑張れとでもいうように親指を立てて背を向けて行ったのに、景時は少しも気付かなかったのだった。おかしい、さっきまでこんな風な様子を羨ましく眺めていただけのはずなのに。景時はそう思いながらも自分もあの陽だまりのような一群の中に入れたようで嬉しかった。もっとも、有川兄弟と入れ替わりに現れた朔に二人はお小言をくらったのではあったけれども。
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