*二人のためのお題 Type : 1*
■手を繋ぐ■
思えば、随分と大胆なことをしたのかもしれない、と望美は今更ながらに頬を赤くする。けれど、あのときはなんと言うか気分がとてもハイで、そうしたい、と思ったのだから仕方がない。こちらの世界に戻ってきて随分と悩まされた迷宮の謎が解けて、そして鎌倉の町に起きていた怪異の原因も解消し、すべてが解決したのだから。
『景時さん、一緒に帰りましょう!』
そう言って、景時の手を取った。……みんなの前で。景時も一瞬驚いたような顔をした。自分も景時の手を握り締めた後で、もしかしてすごく大胆なことをしてしまったのかと思った。でも、今更ほどくこともできないし、それに、景時が優しく手を握り返してくれたから。だから、そのまま、有川家までの帰り道、二人、手をつないで帰ってきたのだった。
クリスマスに二人でデートをしたけれど。あの時は手を繋いだりしなかった。なんだか、手を繋ぎましょう、と言うのも照れくさいような感じで、何か期待しているけれど、でも、このままが心地よいような、そんな一日だった。
(あ、一緒にダンス踊ったからそのとき……でも、あれは手を繋いだっていうのとは違うよね)
でも、あの時確かに景時の手の大きさと温かさを感じて、どきどきしていた。あの楽しい時間がずっと続けば良いのにと思っていた。
「望美ちゃん、ここに居たの〜」
背後から声がして景時がやってくる。2階のベランダから外を眺めていた望美は振り返った。
「寒くなあい? それに、そろそろパーティーの支度が出来るよ〜」
「景時さん。なんだか夕焼けがキレイだな〜って思って。
 それに〜、下に居てもお手伝いさせてもらえないんだもの」
照れくささを誤魔化すように、ちょっと頬を膨らませて望美はそう言った。景時は頬をかきながら、ははは、と笑った。まあ、確かに望美にもわかっているのだ、後片付けならともかく、料理の支度に望美は役に立たない。むしろ、邪魔にさえなる。そうと認めるのはかなり悔しいが。
「そりゃあね、今日は望美ちゃんが主役だもの、主役に手伝わせるわけにはいかないよ〜」
けれど、景時はそう言って望美に向かって手を差し伸べた。
「主役を会場まで案内する役を、オレが仰せつかって、役得だよね〜。はい、お手をどうぞ、お姫様」
どきりとまた、望美の胸が高鳴った。そっとそっと、差し出された手に自分の手を重ねる。でも、重ねただけではなんだかもったいなくて、きゅっと景時の手を握った。望美を見下ろした景時が、にこりと笑ってそっと優しく握り返してくれる。それが嬉しくて望美は笑った。
その笑顔を見て景時は望美から少し視線を逸らし、そして小さな声で言う。
「……望美ちゃんの手をこうやって取ることができるのは……今日はたまたま頑張ったご褒美ってところだけどさ……
 でも、もう他の誰にも譲りたくないかなー、って」
望美が驚いて、赤く色づいた頬で景時を覗きこもうとすると、景時はさらに望美から顔を逸らした。けれど、耳まで赤くなっていて彼がどんな顔をしているか、望美には見なくたって十分、わかった。だから望美も景時から視線を外して、でも耳に届くように、言う。
「私も、景時さん以外の人とは、こんな風に手を繋ぎたくはならないかなあって」
驚いた景時が望美を振り返るがますます赤くなってしまった頬に、今度は望美が顔を逸らしてしまう。しばらく手を繋いだまま、その場でお互い立ち尽くしたままで。
「……な、なんか、こんな顔じゃ、みんなの前に出られないね」
やっぱりまだ顔が赤いままなのであろう景時が、そんな風に言うのを、同じく頬の熱が引かない望美はただ頷いて聞いていた。その後、痺れをきらした朔が二人を呼びに来るまで二人は手を繋いだまま、その場でただ立っていた。
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