*二人のためのお題 Type : 1*
■目覚めた時に■
朝はどちらかというと、苦手なほうだった。だいたいが宵っ張りで、夜更かしをしているものだからついつい朝寝坊してしまうのだ。仕事に追われて、の場合もあれば、ついつい発明に没頭してしまって、のときもあった。なんとか朝食には間に合うように起きるものの、朔には『一家の主たるもの、もう少ししゃっきりしてくださいませ!』なんて良く言われたものだ。
多分、今でも朔からはそう言われることだろう。布団から置きだす時刻は以前とそう変わらないからだ。しかし、目覚める時間はかなり違う。夜、眠る時間が劇的に早くなったということもない。けれど、眠りの質が随分と良くなったのだ。悪い夢を見ることも随分と減った。ちょっとばかりうなされるようなことがあっても、じきに柔らかな手がそこから景時を救い出してくれる。おかげで眠りも深くて、目覚めもすっきりしていた。
しかし、目覚めが早くなった一番の理由は……隣で眠っている望美の顔を見るためだった。その温もりを改めて実感するためだった。多分、自分のことだから、目覚めて隣に望美の姿がなかったら、きっと今までのことがウソだったんじゃないかと不安になってしまうに違いない。その日一日、気分が沈んでしまうんじゃないかとさえ思えてしまう。そんなわけで、望美が朝餉の準備に置きだすよりも前に景時は目を覚ますのだ。そして、眠っている望美の寝息に合わせてふるふると震える睫を眺め、桜色に色づいた唇を見つめ、絹糸のような髪を起こさないようにそっと撫でて、望美の髪に顔を埋めて深く息をする。
自分の腕の中でもぞもぞ、と望美が小さく動くのを楽しんで、それで景時は安心して、とても幸せな気分になって、ほっとする。望美は目覚めがあまりよくないのか、起きる少し前の時間から起きだすまでもぞもぞと良く動く。そんなことを知るのもちょっと楽しい。でも、望美が目が覚めたときに景時が起きていると、自分が起こしてしまったのかと望美が気にするので、望美がそろそろ起きそうだと感じると景時は眠っているふりをする。実はもう一つ理由がある。しばらく、くしくし、と目を擦って褥の中で小さくあくびをかみ殺している望美だが、えいや、と起き上がると、そのまま褥を出て行く前に
「おはようございます、景時さん」
そう囁いて景時の額に口付けを落としていくのだ。それが嬉しくて、多分景時が目覚めているとわかったら、そんなことは恥ずかしがってしてくれないような気がして、だから景時は眠っているふりをするのだった。そんなわけで、目覚めの時は景時にとって至福の時間の一つでもある。
しかし、問題も一つあって。それはあまりの至福に景時はその後、至福の心地のままもう一度眠りに落ちてしまうわけで。望美が毎日優しく起こしに来てくれるものだから、それはそれは幸せで、まったく問題はないようではあるが、朔からの評価は毎朝、下がる一方なのだった。それでも、何度目覚めても、一番に目にする人が望美であるのは景時にとって何よりの幸せなのは間違いなかった。
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