前略、あなたに10の手紙を送ります
■夢を見ました■
ぽかりと意識が浮かび上がって、望美ははっと目をあけた。ぼんやりと天上が滲んで、目をこする。眦から涙が伝い落ちた。
(あー、夢だ)
仕方ないなあ、と自分を笑って、望美はえいや、と起き上がった。そして鼻をひとつ、すすりあげる。景時の背中は、いつも、遠い。夢の中でも、現実でも。心は通じ合ったと思っているけれど、鎌倉と平泉は遠い。
(電話があったら、声だけでも聞けるのになあ)
『君の元へ必ず帰るよ』
そう言った景時の声をこんなときには思い出す。大丈夫、きっと彼は戻ってくる、と自分にも言い聞かせながら。景時は嘘はつかなかった。いつだって。隠し事はしたけれど、嘘は言わなかった。でも、離れた今はだからこそ心配も募る。彼はまた、今も、一人で何かを抱えているのではないかということ。それでも、自分には何もできない。
景時が仲間から離れていったときも、彼の覚悟を知ったときも、感じたことはなんて自分は無力なのかということだった。逆鱗の力を使えても、過去を書き直す力を持っていたとしても、それがいったいどれほどの役にたったことだろう。自分がいったい、何をできただろう。過去も、今も。
(人ならざる力を使えたところで、人が出来ることなんて、たかが知れているのかもしれないな)
そして、本当に力を持つのは人の強い想いなのだ、きっと。
ふう、と息をついて望美は立ち上がる。景時に会いたい。会いたい。いつも、その思いは募るばかりで、信じていても不安は心の隙間から時々顔を表す。そんなときは、景時に文を書くことに決めていた。いつもの、元気な望美ではなくて、寂しくて不安で泣きそうな自分を包み隠さず、正直に。
会いたい、会いたい、すぐにでも会いに行きたい、会いに来て欲しい。
そんな思いを飾らずに、真っ直ぐにただ書き綴る。こんな甘えん坊な自分を知ったら、景時は呆れるかもしれないな、と思う。重たい、と思うかもしれないな、と思う。我侭な、と眉を顰めるかもしれない。だって彼は、望美のために、今も一人、鎌倉できっと銃も刀も使わない戦を続けているであろうというのに。それでも、望美はただ、自分の思いを紙に綴る。会いたい、会いたい、声を聞きたい。
そして、書き終えた手紙を丁寧に畳むとそっと包んで、そして……そして、文箱の中に仕舞った。その箱の中には同じような出さなかった文が何通か。この文箱が一杯になったら、文箱ごと燃やしてしまおうと思っている。
そして、もう一枚、取り出した紙にもう一度、景時あての文を書く。
『景時さんの、夢を見ました』
悲しい夢だったとは書かずに。それでいいのだ。いつか、この悲しい想いも報われて昇華されていくはずだから。何より強いのは思う心。だから時に不安に揺れたとしても、望美は、信じる、景時のことを。
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