前略、あなたに10の手紙を送ります
■此処にはあなたはいないけれど■
景時からの文が届いたのは望美から文を送ってしばらくの後だった。その日数からいえば、景時も望美と同じくらいに文を書いて寄越したようだ。仲間にあてた文と、望美にあてたものと、朔にあてたものと。毎回律儀に3通を送ってくるのに、景時らしいと皆苦笑する。望美にあてた文にはいつもなにかしら花が添えてあった。平泉に着くころには疾うに枯れてしまっているのだけれど、花びらに残る色が望美にはいとおしい。文以外のこの小さな花一輪に、この場にいない景時を偲ぶことができるから。
『望美ちゃんの、夢を見ました』
そんな景時の文に、望美はどきりとした。まるで自分の書いた文と同じだったから。
『望美ちゃんの、夢を見ました。
 オレが会いたいなあ、って思ってることを見抜かれているのかな、なんて思ったよ。
 だから、ちゃんと早く終わらせて、胸を張って会いにいけるように頑張って、って望美ちゃんが励ましに来てくれたのかなあ、って。
 目が覚めて、少し寂しかったけれど、少し嬉しかった。
 ここに、君はいないけれど、でも確かに望美ちゃんを傍に感じることができたから』
夢さえも力に変えることができるのは、景時の心が強いからだ。望美は同じように景時の夢を見て、ただ寂しさを感じるしかなかったのに。
『オレが会いたいと思うとき、君は夢にまで会いに来てくれるのに。
 君がオレに会いたいとき、オレは君の夢に会いに行けてるのかな。夢をすべて覚えていられるといいのにね。
 望美ちゃんはいつも楽しかったことを手紙に書いてきてくれるけれど。
 オレを鎌倉に送ってくれたとき、涙を堪えて笑ってくれたのがわかっていたから
 我慢しなくてもいいよ、ってオレが傍にいたら言ってあげられるのにね』
いつも景時からの手紙は嬉しくて、嬉しくて、そして涙が出てしまう。だからいつも部屋で一人でしか読めないけれど。景時はちゃんとわかってくれている。どんなに気丈な文を送っていても、望美の心の奥には出さなかった文と同じ気持ちがあるということを見抜いてくれている。
(ここに景時さんはいないけれど。でも景時さんの文には、景時さんの想いが、心が宿ってる)
その言葉を読めば、彼がほんの近くで望美を見守っていてくれるような気さえする。
(……大丈夫、うん。寂しくなんて、ない。きっと、もうすぐ会えるもの)
『だから、あと少し。君に胸を張って会いにいけるまで、あと少し。
 今度は、オレが君の夢に会いにいくからね』
夢の中で、きっと会える。今度はそれが夢だったからって目が覚めても寂しく思うことなんてないだろう。そして、夢でなく、本当に景時と会える日だって、きっと、もう、すぐに違いない。
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